ARP Advanced Research Program立命館大学薬学部・薬学研究科 研究留学プログラムRitsumeikan University · College of Pharmaceutical Sciences

Voices · 2025 · Chalikian Lab / Henderson Lab

博士課程の二人が見た、
少人数ラボの研究文化

北村 奎時(きたむら けいじ) 白砂 雄太郎(しらまさ ゆうたろう) 薬学研究科 博士課程後期課程(当時) 滞在:2025年度、5週間 受け入れ:北村=Tigran Chalikian 研究室/白砂=Henderson 研究室

This article is available in Japanese only. Use the top page for an overview of the program in English.

同じ研究室の博士課程に在籍する(当時)北村奎時さんと白砂雄太郎さんは、2025年度の ARP-UofT に同時に参加しました。ただし、行き先は別々です。タンパク質の物理化学を専門とする Chalikian 研究室に北村さん、細胞生物学の Henderson 研究室に白砂さん。それぞれに「新しい測定法で新しい結果を出す」「細胞系研究の土台を築いて持ち帰る」という明確な任務を持っての渡航でした。帰国直後の二人に、5週間を振り返ってもらいました。

それぞれの任務

白砂Henderson 先生のところで、細胞に関する研究をしてきました。うちの研究室で新しく細胞系の研究を始めるので、その基礎を築くために基本的な操作やノウハウを学び、少し応用的なこともやってきました。将来はアカデミアで、いつか自分の研究室を持つのが夢なので、キャリアも考えてこちらを選びました。

北村僕は Tigran Chalikian 先生という、タンパク質の物性物理化学を専門とする教授のもとでお世話になりました。僕たちがこれまで研究してきた「液液相分離」という現象に対する新しい測定法を開発し、その現象を別の側面から明らかにする研究の立ち上げです。研究室から後輩が伺うことはあったのですが、「新しい測定で新しい結果を出そう」という明確な目的で行ったのは、僕が初めてだと思います。

二人がそろって言うのは、「結果として、このアサインは正解だった」ということ。お互いに目的をある程度達成して帰ってきました。

いきなり「プロポーザルを発表してほしい」

北村さんにとって最大の壁は、到着の翌日にやってきました。挨拶の場で Chalikian 先生から「あなたは何がやりたいの?」と問われ、ざっくりとした構想を伝えると、「少し分からないな」と。どういう情報が欲しくて、そのためにどんな実験が必要で、だから何を使うのか。きちんと説明してほしいということでした。

「プロポーザルを発表してほしい」と言われて、2日後に45分のプレゼンテーションをやることになりました。構成もコンセプトも全部自分で考えて、スライドを出すたびに質問がボンボン飛んでくる。だいぶ苦闘しました。でも、そこで自分のやりたいことを共有できたので、その後の話は進めやすかったです。

北村

2日間で原稿を一から考えて45分も話せるわけがない。そこで北村さんが心がけたのは、自分が話せる簡単な言葉と必要な専門用語だけを押さえ、コンセプトをいかにシンプルにするかでした。「難しい現象をどうやってシンプルに喋るかは、一番考えたことかもしれません」。

「伝われば勝ち」:出川イングリッシュのすすめ

「僕はあまり英語を喋れる方ではないので」と白砂さんは切り出します。それでも、コミュニケーションは口だけでするものではない。分からなければ絵を描く、身振り手振りをする、指差しをする、写真を撮って見せる。「これ英語で何て言うの?」と自分から聞く。

使えるものは全部使っていました。How do you say that? の一言で行けることが分かりました。人に伝えるときは、何をしてでも伝われば勝ち。言語だけじゃないし、身振り手振りだけでもない。あらゆる表現を使って、自分の考えていることを伝えることです。

白砂

北村さんが苦労したのは、ネイティブ同士の日常会話に割り込むことでした。「なんとなく音を拾えても、次に何を言おうかと考えているうちにワンテンポ遅れる」。そこで開き直ったのが、自分のペースを持つことです。「喋れるタイミングがあったときは、自分のためだと思って喋りに行く」。

成長したこと、持ち帰ったもの

白砂一番良かったのは、英語で喋る勇気です。語学力というよりコミュニケーション。英語で語りかけられても怖くなくなりました。研究の面では、基本的なことを学べたので土台がしっかりしました。帰国した翌日に、北原先生に新しいプロジェクトの提案書を出せました。将来自分が研究室を持ったときに、グローバルにやっていける自信の欠片のようなものを得られたと思います。

北村修士のころにドイツに行ったときは、実験はできたけれど、最終的に使えるデータにはなりませんでした。今回はいろいろな縛りがある中で完全に新しいことにぶつかっていき、本当に新規の結果を生み出すことができた。それが大きな達成感になりました。もうひとつ、理論から勉強し直して、結局たどり着いた結論が、北原先生がやっていることと本質的には近いところを別の角度からやっているんだ、ということでした。式を追いかけてやっと気づいて、パッと見通しが開けた瞬間がありました。

北村さんは、自分の所属とはまったく違う複数のラボを経験することの大切さも強調します。「その国やラボ単位の事情、慣習、方針の違いを知ることができる。自分のコンフォートゾーンの外側に行く経験は、今後も続けていく必要があると感じています」。

PEP の授業と、いま

学部低学年のころの PEP(プロジェクト発信型英語プログラム)の授業について尋ねると、二人の答えは対照的で、しかし同じ方向を向いていました。

白砂PEP の発表で、僕は原稿を作らずにそのままやっていたんです。自分の持っている英単語や文法で喋る。伝えるためにあの手この手を使う。それを当時に鍛えたつもりでした。

北村僕は原稿を丸覚えしていましたが、それではダメだと思います。丸覚えした原稿は完成されたフレーズで、相手にとって拾いにくい。相手のアンテナがどれだけの情報を受け取れるかまで考えなくてはならない、というのは当時は思い至りませんでしたが、今ではそこまで考えて話しています。PEP は見せ方の話ではなく、いかに構成を練り上げるか、自分たちが何をしたいかという前提をいかに素早く分かりやすく共有するか、という点でとても勉強になるものだと思います。

2026年に行った帰国後インタビューをもとに再構成しました。学年・所属は取材当時のものです。