Voices · 2025 · Bendayan Lab
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薬学科5回生(当時)の篠原和栞さんは、病院・薬局での実務実習の合間をぬって、トロント大学薬学部の Bendayan 研究室に約1か月半滞在しました。「変化を好まない、人見知りな性格」だったという篠原さんが、帰国から1年たって振り返る留学の意味を聞きました。
研究室で特定の院生に付くのではなく、同じ時期にラボに来ていた2人の留学生(中国からの研究者と、パリ大学からの学生)と行動をともにし、その研究を一緒に進める形で日々が始まりました。「留学生同士で仲良くさせてもらって、いろいろ教えてもらいました」。
印象に残っているのは、週に1回のラボミーティングです。いま何をしていて、どんな結果が出て、次にどうつなげるか。院生でも留学生でも関係なく、対等に、考えを深めるための議論が活発に交わされていました。先生も「Hi!」と気軽に声をかけてくれる距離の近さがあり、「そういう関係があるからこそ、議論もしやすかったのだと思います」。
難しかったのは、まさにその議論です。専門用語が飛び交う中で、ものすごいスピードで話が進んでいく。「私自身、英語がそんなに得意ではなくて、日常会話から少し難しいぐらいのレベルで行ったので、ついていくのはすごく苦労しました」。
そこで篠原さんが徹底したのは、あとで振り返ること、そして聞き返すことでした。分からなかったところを聞けば、誰も嫌な顔をせずに「こういう話をしていたんだよ」と説明してくれる。日常会話でも「今なんて言ったの?」と聞き返す。「そうやって振り返っていくことが大事なんだと思ってやっていました」。
意外だったのは、専門用語以外の英語です。「混合する」は mix でいい。「意外とこの言葉でいいんだ」と思う場面が多く、「感覚としては、意外と簡単だった」と笑います。
多様な文化の中で過ごして最も強く感じたのは、いつも「あなたはどうしたいの?」と問われることでした。研究でも、遊びに行くときでも、「どこに行きたい? 何がしたい? 何を食べたい?」と聞かれる。
私はいつも「何でもいいよ」と周りに合わせるタイプだったので、最初は「自分はどうしたいんだろう」とすごく戸惑いました。自分が何をしたいのかと向き合う1か月半でした。
この経験は、研究への向き合い方も変えました。以前は「自分が欲しかった結果を出さなきゃ」と思っていたのが、そこに至るまでの誰かとの対話や、失敗したことも成果の一部なのだと考えるようになった。「失敗が何かマイナスになることではないな、と思うようになりました」。
一人旅の経験さえなかった篠原さんが留学を決めたのは、先生から機会を教えてもらい、家族が背中を押してくれたこと、そして研究室の先輩たちへの憧れがあったからでした。「研究室に入って、ここでやっている研究が臨床現場につながっているんだと感動して。私も何か貢献したい、それを下の代にもつなげたいと思いました」。
実際に、篠原さんが渡航した翌年には、同じ薬学科の後輩3人が ARP でトロント大学に向かいました。実習や就職活動、国家試験の勉強とどう両立させたかを、後輩たちから相談されることもあったそうです。「大変さも分かった上で『留学してみたい』と思ってくれたのは、すごく嬉しかったです」。
帰国して1年。篠原さんが変わったと感じるのは、「自分の考えを、自分の言葉で言ってみる」ことへの抵抗がなくなったことです。低学年のころは英文として正しいか、文法が合っているかを気にしていた。今は、とにかく考えを伝える。「間違っていれば、また言い直せばいいだけだと気づきました」。
進路は製薬企業に決まりました。留学前は何も絞れていなかったそうですが、「薬剤師というより、薬を作ることに携わってみたい」という思いが強くなり、企業一本に絞ったといいます。家族からは「意外と怖がらずにやるようになったね」と言われるようになりました。
「挑戦した」ということだけでも、大きな成果になります。後になって「あの時の自分はトロントに行けたんだぞ」と思えることが、すごく糧になる。もしよかったら、挑戦してみてください。
「留学していると辛いこともあるし、全部が楽しいわけではない」と篠原さんは正直に言います。それでも、小さなことでもやってみることが、その後の自信になる。就職活動のときも、その先も。