ARP Advanced Research Program立命館大学薬学部・薬学研究科 研究留学プログラムRitsumeikan University · College of Pharmaceutical Sciences

Voices · 2026

「分からない」より「聞かない」ほうが良くない。
積極性が育った5週間

飴野 樹(あめの いつき) 薬学科5回生(当時) 滞在:2026年度、約5週間 研究テーマ:加齢黄斑変性(AMD)の治療戦略

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研究室で、指導してくれた先生と
研究室で、指導してくれた先生と。

薬学科5回生(当時)の飴野樹さんは、2026年にトロント大学薬学部の研究室で約5週間を過ごしました。日本では筋肉や肝臓の細胞を扱っていた飴野さんが取り組んだのは、目の病気である加齢黄斑変性(AMD)の治療戦略。動物実験と細胞実験を組み合わせた、まったく新しい分野でした。

博士課程の先輩に教わりながら、動物から遺伝子まで

「もともと DDS(薬物送達システム)系かなと考えていたんですが、実際に行ってみると AMD の治療戦略を動物実験と細胞実験で考えていくのがメインでした」。ついていたのは博士課程の先輩。動物への投与や画像撮影を行い、目の組織を取り出して PCR やジェノタイピング(遺伝子型判定)をする。平日は朝10時から夕方5時ごろまで実験室にいて、週末は街に出る生活でした。

週に1回のラボミーティングでは、先生とメンバーが集まり、各自が先週の研究をスライドで発表し、考察と今週の計画を話します。「一番驚いたのは、活発に意見交換をすることです」。

先生との距離も近く、お菓子を食べながらのミーティングや、先生の自宅でのバーベキューにも呼ばれました。「優しくて親切な一方、真面目な場面ではしっかりディスカッションしてくれる先生でした」。

「centrifuge」が分からなかった

大変だったのは英語です。周りに日本語を話せる人がまったくいない。日常会話はある程度できても、実験室に入ると、手技や機械、組織に関する英単語がまったく分からなかったといいます。

「たとえば遠心分離は centrifuge や spinning down と言うのですが、最初は『何だろう?』と思いました」。すぐに聞いて、綴りを調べて、翻訳する。2週間ほどたつと同じ単語が繰り返し出てくるので、だんだん分かるようになりました。「事前に調べておくと、もっと早く理解できたと思います」。

「分からないこと」より「積極性がないこと」が問題となる

目の組織は小さく、これまでより細かい手技が求められました。最初は英語の聞きづらさも感じていたそうです。しかし、現地は「分からなくても全然いい」という雰囲気。むしろ、分からないままにしておくことのほうが良くないとされる環境でした。

向こうでは「分からないこと」よりも「積極性がないこと」のほうが好まれない、という感じだったので、思い切って聞くようにしたら、とても良くなりました。

トロントにはインド系や中国系など、いろいろな国から人が来ていて、日本人が入っても浮かない雰囲気でした。「英語はコミュニケーションツールの一つで、実験へのモチベーションが高いかどうかが重視される環境だったので、質問しやすかったです」。同じタイミングで研究室に入ったパリ・シテ大学からの交換留学生とは、席が近かったこともあり、特に仲良くなりました。

「1人でやってください」から始まった変化

行く前は「先輩に少しついて実験させてもらうくらいかな」と思っていました。実際は最初の1週間だけ先輩について、あとは「サンプルとプロトコルを渡すので1人でやってください」となっていきました。一人で調べるには限界があります。そこから、積極的に周りとディスカッションしながら研究を深めるやり方に変わっていきました。

研究への向き合い方も変わりました。以前は「結果を綺麗に出さないといけない」と思い、仮説と違う結果が出ると落ち込んでいた。しかし毎週の報告では、失敗した実験も出して考察を加えていくのが当たり前でした。「失敗も次に活かせるプラスなことだと捉えられるようになりました」。

真っ白なスライドに、結果だけ

プレゼンテーションの考え方も大きく変わりました。日本では「スライドをいかに綺麗に作るか」という感覚だったのが、向こうは真っ白なスライドに結果だけを載せ、あとはどれだけ口頭で話せるかという世界。

考察は載せずに口頭で述べていくうちに、「自分でもここが分かっていない」という発見があったり、客観的な意見をもらえたりしました。スライドを作る前にたくさんディスカッションして発表に持っていけたので、理解の深まり方が全然違いました。

だから飴野さんにとっての「発信力」は、「どれだけ自分が理解して、自分の言葉で説明できるか」です。「綺麗なスライドを見せれば理解してもらえるだろう、となると原稿を読むだけになって理解が深まらない」。低学年のころの PEP の授業を振り返っても、「作る前にたくさんディスカッションすることがどれだけ大事か、今は分かります」。

トロント大学薬学部の建物で、同時期に参加した本間さんと
同じ時期に ARP-UofT に参加した本間至恩さんと、トロント大学薬学部の建物で。

エレベーターから広がった輪

研究以外でも、飴野さんの「話すことが大好き」な性格は発揮されました。学生寮のエレベーターで一緒になったカナダ人に「最近日本から来たんだ」と話しかけたことから友達の輪が広がり、学食で食事をしたり、映画に行ったり。ちょうどサッカーのワールドカップの時期で、サッカー場でたまたま出会ったグループと一緒にプレーして、連絡先を交換したりもしました。

「日本人は笑顔で話しかける能力がすごく高いと思っていて。笑顔で接することで心の壁が取れていくのが分かりました」。変わらない自分らしさとして挙げたのも、「ニコニコ笑顔でいるところ」でした。

「交友関係がまったくない場所に放り込まれたことで、輪を広げる力を実感した」飴野さんは、「人と話す」職種に就きたいと考え始めています。「海外で暮らせることが分かったのは大きいです。国際学会など、海外に行けるチャンスがあれば積極的に参加したい」。この経験は、これからの実習、就職活動、そして社会に出てからも続いていきます。

2026年に行った帰国後インタビューをもとに再構成しました。学年・所属は取材当時のものです。